旅人が来なくなって久しい小樽。
Go Toキャンペーンなるもののかけ声で、
それでも観光客の到来は少しは増えてきたかもしれない。
わが宿は、ほんとうにぽつぽつだ。
それならば、こちらから出かけるか。
どこへ? 大正から昭和初期の日本各地の美しい町の
風景に出会いに…。
ニトリの旧三井銀行の美術館で、
「川瀬巴水・吉田博と旅する日本」
と題した版画美術展が開かれている。
川瀬巴水は、味わいのある日本の風景、
たとえば「東京二十景・平河門」「浜町河岸」「清水寺乃暮雪」
「潮来の初秋」など、今よりずっと静かで落ち着いていた時代の
なつかしい景色を描き、渋い色刷りで版画に仕上げている。
巴水は、その名のとおり、水辺の描き方が特に美しく
秀逸だ。
彼の作風は、歌川広重に似ているといわれたこともあるとか。
確かに広重の「東海道五十三次」の大正、昭和版といっても
いいかもしれない。
作品の夕闇の静けさ、川面に映りゆらゆらと揺れる
月明りなどは、しみじみとした情緒があり、
実際の風景よりも、人の心になつかしい思いを起こさせる。
吉田博も、巴水に作風が似ていて、こちらは
もう少しきりりとした個性がある。
巴水の情感、大正、昭和の初めのセピア色の時代の空気は、
かもめやがあこがれ目指すものである。
かの芥川龍之介も、こんな景色の中に生きたに違いない。
ひとり版画の前にたたずみながら、この時代の
情感にひたった。
遠くへ行けなくても、絵画や版画の風景の中に
心を遊ばせることができる。
しかも、時代も空間も距離も超えて…
かもめやや自宅からも、歩いて行けるところに
美術館があるというのは、恵まれた環境にいる
といえるかもしれない。
さて、また線路跡の遊歩道をゆっくり歩いて
帰ろうか。
それにしても、9月だというのに、この暑さは
いったい…。
川瀬巴水と吉田博の版画展のパンフレット
ニトリ美術館の庭。真ん中のグレーの建物は、石原裕次郎の
お父さんが北海道支店長をしていた船会社
旧三井銀行がニトリ美術館になっている
銀行内部にある金庫の扉。ものすごい厳重な鉄製