しばらく晴れの日があったと思ったら、また大雨に見舞われた。
梅雨がないはずの北海道も、近年は梅雨模様の時期がある。
この7月で、かもめやは開宿10年目に入る。
店のわきの小さな花畑に開業当時植えたアジサイが
大きなピンクの薬玉のような花をつけた。
この10年、草の生い茂った山道をあてもなく歩き続けるような
宿屋稼業だったが、
町の人にも「北運河の近くに、小さな宿屋があるよ」
ぐらいには知られるようになった。
開業当時はめちゃくちゃ働いた私も年を取り、
今では「古い奴だとお思いでしょうが、ホントに古いんです」
なぁんていって、年代ものの置物のように店にいる。
ある雨の激しく降る日、北海道の知床方面を回ってきたという
老年ライダーが、びしょぬれになってバイクで到着した。
上着もズボンも靴も荷物もぐっしょりぬれている。
上着を椅子にかけると、しずくがたれて、床にたまった。
ぬれた衣服をとりかえるだけで一仕事だ。
すると、すぐにまた2人の熟年ライダーがバイクでやってきて、
「寒い、寒い、こごえそうだ」という。
この人たちも上から下までびしょぬれだった。
やっとのことで着替えをしたら、「寒いからストーブをつけて」という。
その日は24℃ぐらいはあったと思うのだが、
この真夏にストーブとは。
冷えた体を温め、ぬれた衣類を洗濯していた。
翌朝帰るとき、靴も上着もヘルメットも、まだまだぬれている。
「うわ〜っ、きもちわるい」といいながら、
3人は、それでも装備を整えた。
こんなことまでして、まだ危ないバイクに乗りたいのだろうか。
この年代の男たちの気持ちがわからない。
「さすがにこりたでしょう?」と私が言うと、
3人のライダーは口をそろえて、
「いや〜そんなことないよ、絶対に。だって、北海道はいいもんなぁ」という。
そうか、それほどまでに北海道はいいのか。
ならば許してあげる。
残り少ない命? をかけても、北海道にひかれる。
北海道の魅力をあらためて知った思いがした。
一番年上とおぼしき男性は「お父さん、ぜったいにやめなさい
と娘にいわれたんだけど、
振り切ってきたんだよ。こんな旅は、今年が最後かな」という。
残り少ない命、男は何に賭けるのかといえば、
危険に賭けるのかもしれない。
女は? そうねぇ、すわっていてもできるし、肺活量も増える
おしゃべりかな。
園芸下手の私でも、こんなに咲かせられました